大して広くもないのに、ひどく広大な部屋に感じる。
HR後、できるだけ早く教室を出た。
取り巻く女子生徒の話を右から左に聞き流し、甘い声を甘い笑顔で悩殺しつつ、駅舎へ向かった。
美鶴からどのような視線を向けられるのか、正直不安はあった。
夏休み前のように、一方的に拒絶されるであろうとも覚悟はしていた。
でも、会わずにはいられない。
だって、逢いたい。
逢いたいんだ。
その一心で駅舎まで辿り着いた。
だが、そこに待っていたのは無人の空間。美鶴はおろか、聡もいない。
聡はむしろいない方がいい。だが美鶴まで?
まだ来ていないのだろうか?
最初はそう思い、だがすると、別の疑問が浮かび上がる。
なぜ、鍵が開いているのだろう?
今、瑠駆真が手を添える駅舎の入り口。来た時、すでに開いていた。
鍵を開けた後、どこかへ行ったのだろうか?
ならば、待っていれば戻ってくる。
そう思い、しばらく待った。
腹が減り、コンビニへ向かい、戻ってきたがまだいない。
あんなに覚悟して来たのに、肩透かしを食らわされた気分。
虚無のようなボンヤリとした世界の中で、本当にボンヤリと温い冷やし中華そばを食した。
コンビニへゴミを捨てに行き、戻ってきても、やはり待つのは無人の世界。
ひょっとして、今日は駅舎に来ないのか?
じゃあ鍵は?
思い浮かぶのは、色白の美青年。
彼か、もしくは木崎という老人が鍵を開けたとも考えられる。
だが、なぜ?
夏休みの間は、彼らが施錠と開錠を行っていた。それは瑠駆真も知っている。だが学校が始まれば、また美鶴が管理するはずだ。
なぜ?
そこまで考え、そしてそこで唇を噛み締める。
もうこれで何度目だろう。
行き当たる考えに、苛立ちを感じる。
僕を、避けているのだろうか?
成績の事を、まだ怒っているのだろうか? もう僕には会いたくないと、そういう意思表示なのだろうか?
僕を避ける為に、駅舎の管理を霞流という青年へ返上したのだろうか?
美鶴はこの空間を気に入っていたはずだ。
最近では騒々しくなったと愚痴ることもあるが、それでも寄らない日はなかった。
瑠駆真が高級マンションの一室を与え、通学ルート上から駅舎の存在が外れても、わざわざ定期を買ってまで通っていた。
こちらが嫉妬するほどに、美鶴はこの場所が気に入っていたはずなのだ。
その管理を、霞流に返してしまった。
なぜ? 僕を避ける為に?
顔だけ室内に向けていたのを、今度は全身で向かい合う。大股で入り込み、椅子に腰をおろした。
よく美鶴が座っている場所。だから、滅多には座れない場所。
それほどまでに、僕を拒絶するのか?
思えば美鶴との距離は、まったく縮まっていない。いないような気がする。
四月に再会してからと言うもの、二人の間柄はどれほど密になっただろうか?
この数ヶ月の成果と言えば、せいぜい名前で呼び合えるようになったくらい。それも、強引に瑠駆真が承諾させた。
どうすれば、美鶴の心を引き寄せることができる?
そこまできて、いつも堂々巡り。
何が? 僕に何が必要なのだ? なぜ僕は想われない?
興味を持ってくれる異性は、今なら両手では数えきれぬほど存在する。中学時代には考えられなかった存在。
同級生とは冷たいモノだ。
瑠駆真にこびりついた擦れた感情。それが彼女らの行動を白けさせる。
だが、邪険にも扱えない。
集団生活の中において、自分を良く思ってくれる存在は貴重だ。その重要性を、瑠駆真は中学時代の経験から痛感している。
|